それはなんてことない日常の光景


今日も花咲く日常の中のおしゃべりの花











 小鳥歌えど大樹は動かず
















ある人は言った。

「コイバナは乙女の暇つぶし」だと。

少なくともここ、神羅に勤める普通の女性社員はそうである。

休み時間に始まる何気ない会話。

そして話題は徐々にコイバナへ移っていく。


「そういえば聞いた?あの噂。」

「なに?なんの話?」

「都市開発のリーブ部長。最近付き合ってる女性がいるらしいわよ〜。」

「ホント?誰、誰?!」

「それが全ッ然!!これっぽっちも情報が入ってこないのよね〜。

 最近といっても付き合い始めたのがいつかは分からないし、今でも熱愛中みたい。」

「へぇー・・・」

「でも誰か分からなくちゃ、ねぇ?」

「そうよねぇ。」


女性社員二人組はがっかり、と肩を落とした。

さて、社員食堂で休憩中の彼女たちが噂している当本人は自分の執務室に居た。

最近はアバランチが小さい所で色々やってくれているためか、やたらと報告書が届く。

神羅が作った施設の被害は多く、それを立て直すための予算も馬鹿にならなかった。

ふぅ、と小さく一息ついてちょうど昼時であることを知る。

その時タイミングを計ったかのように携帯電話が静かに震えた。

開いて見ると彼がよく知る人からのメールだった。

その名を目に入れた瞬間、思わず口元が緩んでしまう、

文面はいたって簡単なもの。


RよりL。今日は比較的早めにあがれそう。何事もなければいつものあの場所で。』


素早く目を通した後、己の腕時計を見る。

今日はどのくらいであがれそうか頭の中で計算し、返事を返す。


『Lより R。こちらはいつもと変わらないが先に着いたのならば待っていて欲しい。』


RよりL。了解。あまり遅いと領収書がとんでもない桁になるのでご注意を。』


さらに返ってきた言葉に小さく笑いがこぼれた。

確かに“彼女”を待たせすぎてはとんでもない事になりかねない。

出来るだけ速やかに仕事を終えよう、そう心に決めて携帯をしまった。

さて、と彼は机の上の報告書と対峙する。

都市開発部門統括、リーブ=トゥエスティの腕が試される瞬間であった。





 *****




そこはとても静かなバーだった。

しかも場所が場所であるがために知る人は少ない。

俗に言う「穴場」というヤツである。

カウンターと少しの個人席。

そこまで広くもないが、それがこのバーのいい場所でもある。

リーブはバーに入るとすぐに店の中を見回した。

そして奥の席に“彼女”がいるのを発見した。

小走りで駆け寄ると先に飲んでいたらしく、少し減ったボトルがテーブルの上にあった。


「まだ領収書は無事かな?」

「まだ大丈夫よ。」


向かい側の席に座り、彼女があらかじめ用意しておいたらしいグラスに注いでもらう。

そして静かな店内で静かに乾杯をした。

ほんのりとした店内の明かりの中で琥珀色の液体が揺れる。


「なんだかんだで久しぶりになるんだな。」

「そうね。こっちはこっちで連続勤務だったもの。」

「疲れたかい?」

「連続勤務を愛せるのはよほどのワーカホリックだけよ。私がそんな人間に見える?」

「まったく。むしろ毎回毎回愚痴をこぼしていただろうね。」

「大正解。正解者には小さな拍手を。」


そう言って本当に小さな拍手を贈った レゼを見てリーブは優しく微笑んだ。

元気そうな彼女の様子と久方ぶりのゆったりとした時間がたまらなく愛しい。

彼女も神羅に属しているが、リーブとは違う部署なのだ。

それも神羅の影たる部分を主に背負う、神羅カンパニー総務部調査課・・・通称「タークス」。

ビルの中で働くリーブと比べれば遥かに高い確率で死と隣り合わせに働いている。

こうして無事に再会して酒を傾けあうのはとても幸せなことだと思う。


「そういえば食堂で面白い話を聞いたわ。」

「どんな話だった?」

「都市開発のリーブ部長が熱愛中、だったかしら。心当たりは?」

「目の前に居るじゃないか。」


そう言ってテーブルの向こうの彼女の頬に手を伸ばす。

優しくその白くて滑らかな肌をなでると、 レゼは嬉しそうに目を細めた。


「それで、熱愛中の レゼについては何もなかったのかい?」

「うまいことやってるからね。気づいているのは本当に勘がいい人だけよ。」

「私としては言ってもかまわないのだけれどね。」

「私が嫌なの。茶化されたくないし、中には人のだとなおさら燃えるタイプの人間もいるのよ。」

「わがままな レゼお嬢さんだ。」

「ごめんなさいねぇ。独占欲が強いのかしら?」


己に問いかけたのか自分に聞いているのか、それは定かではないが笑っておいた。

たとえ彼女の独占欲が強かろうと、それはおそらく自分も持っている可能性も否定は出来ない。

事実、会えなかった数日間は本当に色々考えていたものだ。


「しばらくそのままにしておこう。そのうち興味は別の方へ移るさ。」

「女の噂話はそういうものだしね。」

「時に、 レゼ?」

「何?」

「個人的にこのまま領収書の桁を増やすよりも願いたいことは色々あるのだが。」

「内容にもよるけれど、こっちも色々あるから聞いてあげなくもないわよ。」

「では、移動するか。」

「そうね。」


そして二人は静かな店を後にする。

途中で レゼが甘えるように腕を組むとリーブはそれを受け入れて微笑んだ。

愛しげに彼女を見る目は人を愛するそれであり、見返した彼女の目も同じ光を宿していた。

夜というものは人によっては長いもの。

しかし今の二人にとって愛を語らうには少々足りなくもあり。

何であれ、月はただただ静かに世界を照らすだけであった。




 *****




「そういえばリーブ部長の熱愛相手、わかった?」

「それがさっぱり。見事なまでに隠されてるわ。」

「結婚とかしちゃうのかしら。」

「どうかしらね〜・・・」


そして今日も今日とて咲くはおしゃべりの花。

日常話、噂話、そして恋話。

ああでもない、こうでもないと色々語る女性社員たちの横を平然と通り過ぎる影が一つ。

レゼは彼女たちの会話を横耳で聞くと静かに小さな笑みをこぼした。

今度会った時彼はどんな反応をするだろうか。


「さて、仕事しますか・・・」


そして レゼもまた、日常へ。















 





 2006/4/30 write & up


 燕璃さんの夢小説その5!何と!今回はリーブさんですよ!
 意外な人選にビックリ!
 でも、よくよく考えてみれば、リーブさんって中々こう……くすぐってくれますよね(何を)
 いい年したおじ様がぬいぐるみ抱いてるなんて、何て可愛いんだコンチクショー!
 燕璃さんの気持ち、よく分かります。

 FFのほかにも様々なジャンルの夢小説がラインナップされています、燕璃さんのサイト「氷雪原の庵」へはこちらからどうぞ!

 

 

 

 

 

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