人間の力の限界を見た気がした


窓の向こうに迫る 光弾


自分の役目を やるべき事を 為した


そう、思っていた













 それでも君は笑ったから
















轟音が耳の奥で反響している気がした。

ふと目を開けてみると、冷たい金属がそこにあった。

―地獄という場所はやはり冷たいものだな。

そう思った。


「ご無事ですか、ルーファウス社長。」


その声を聞くまでは。

自分は幻聴を聞いたのだと思った。

だが痛む身体を動かして見ると、そこに居た。


「お前は・・・」

「はい。タークスの フェイです。」


何度か彼女を見た事はある。

ツォンと時々行動を共にしており、護衛として彼女が来たこともある。

何故彼女がいるのか、分からなかった。

だが彼女の両腕がボロボロになっているのに気づき、目を見開いた。


「その、腕は」

「多少軽減されるかと思って、考え付く限りの守護系魔法使った反動です。

 マテリア全部使い物にならなくなりましたが、社長を守れただけでも運が良かった。」


それはさておき、と彼女はルーファウスの傍に膝をついた。

そして自分の肩を貸すようにして彼の身体を支えた。


「まずはミッドガルを出ましょう。今後の事はそれからです。」

「しかし、ここはまだ―」

「残念ですが自分はそれにはお応えしかねます。減給なり何なり、文句は後で受け付けます。」


フェイはルーファウスに劣らないくらい負傷していた。

腕の事もあるが、浅くは見えない傷が何箇所にもあった。

彼を支えるようにして歩く速度はお世辞にも早いとは言えない。

だが確実に進んでいた。

何時間もかけて通路を抜けると、一台のトラックが止めてあった。

フェイは周りがウェポンの攻撃により火の海になっているのを見て顔をしかめた。

そしてトラックの助手席にルーファウスを乗せ、自分は運転席に乗った。

エンジンをかけ、全速力で走り出す。

揺られているうちに眠気が襲ってきたのをルーファウスは感じていた。


「ひとまずカームで応急処置だけさせていただきますから、それまでお休みになって結構ですよ。」

「あぁ・・・」

「あぁ、永眠だけは勘弁してくださいね。仮にしようとしたら容赦なくひっぱたきますから。」

「ふっ・・・恐ろしいものだな。」

「よく言われます。」


ガタゴトと揺れる中、ルーファウスは微睡みの中に沈んでいった。

その心は不思議と穏やかだった。













かすかに覚えている母親の夢を見た。

微睡みのなかでぬくぬくと、幸せを噛みしめていた。

今となっては遠い記憶。

そこで目が覚めた。

一般家庭の木造の天井が見えた。

記憶の糸を手繰り寄せて思い出す。

彼女の姿を探すと、自分の傍に居た。

ベッドの横にある椅子に座って眠っていた。

ボロボロになっていた腕には白い包帯が巻かれていた。

自分がまだ生きていることに対し、複雑な息を吐いた。


(私は、何をしているのだ・・・?)


ウェポンの攻撃によりどれだけ被害が出たかが気になっていた。

死んだ親父が作り上げた、あの閉鎖的な街。

いつの間に愛着などわいていたのだろうか。

街を、守ろうとしていた。

だが自分はその役割を終えるどころか逃げ延びている。

何千、何万という住人を残して―


「・・・う、あ・・・。」

「・・・?」


フェイが何か寝言を呟いている。

徐々に眉間のしわが深くなっていき、そして―


「それ食べたら本気で技かけるぞッ!!!」


覚醒した。

とんでもない寝言(のような物)にルーファウスは目を丸くしていた。

フェイは一瞬「ここは何処だ」という顔をし、すぐにルーファウスの方を向いた。


「社長!起きてたんですか!?」

「あぁ・・・とんでもない寝言も聞かせてもらった。」

「ッ・・・!」


恥ずかしさからだろうか、 フェイは頭を抱えた。

彼女の動作の一つ一つがおかしくて、小さく笑った。

だがそれはすぐに影をひそめ、消えた。


「社長?」

「何故、私をあそこから連れ出した?」

「あそこって、ミッドガルですか?」

「当然だ。」


自分はあの街の中心に、頂点に居ると言っても過言ではない。

それが外に逃げたと分かったら住民たちはどうするだろうか。

また、あの場には多くの兵士達も居る。

自分がどれだけ寝ていたかは分からないが、混乱極まりない状態だろう。

とにかく、戻らなければならないと思っていた。

だがルーファウスの心情を知ってか知らずか、 フェイは言った。


「戻ると言っても、聞きませんよ。」

「何故だ。」

「あの惨状で貴方が生きていると思う人間は多くないでしょう。

 それに今戻れば逆に騒ぎが大きくなります。要は余計混乱を招くということです。」

「だが・・・!!」

「じゃぁ聞きますけど、社長はミッドガルの住人が弱いものと思ってますか?

 神羅カンパニーの恩恵無しではすぐにくたばるような存在だと思いますか?」


フェイの目は真っ直ぐにルーファウスを見ていた。

彼女がカンパニーの一社員であることを忘れたかのように。


「人間というのは最終的に「生きたい」というのが強いんです。余程ショックを受けない限り。

 生きるためにもがいてもがいて・・・そうやってしぶとく生き残るんです。」

「・・・・・つまり、大丈夫だと言いたいのか?」

「はい。皆さんどうにか逃げてると思いますよ。メテオもどうにかなるでしょうし。」

「それで、私をどうするつもりだったのだ。」

「ひとまずちゃんとした設備のある所で治療を。そしてこの件が片付き次第少しずつ再建していこうか、と。」

「楽な仕事ではないぞ?」

「承知しております。」

「自分にどれだけやるべき事が殺到するか分かっているのか?」

「こう見えて性根は図太いので、少しの事じゃ倒れませんよ。」


世界はメテオという脅威にさらされているというのに、

ミッドガルは混乱の真っ只中にいるというのに、

フェイは笑った。

不謹慎かもしれないが、それがとてもありがたい物に見えた。

そして同時にとても綺麗だと思った。


「しばらくは、世話になるな。」

「お気になさらず。代わりにと言っては何ですが」

「何だ。」

「しばらく身を隠すこともありますし、ルーファウス・・・と呼ばせていただいても宜しいですか?」

「ならば私の方も フェイ、と呼ばせてもらう。」

「了解しました。」

「口調も直さなくてはならないな。」

「あぁ、確かに。」


―彼女とならば生きていける。

不思議な確信が生まれていた。

たとえ世界がどんなことになっても、彼女は笑ってみせるだろう。

ならばそれを守るためにも生きなければならない。

深く、生を噛みしめた。





                           終













※あの状況からどうやって逃げられたのか本当に聞きたかった。
 でも生きててくれて嬉しかった。泣きそうになった。これ事実。
 そこから生まれたと言ってもいい。社長ステキだー。


 2005.9.22 write & up




 燕璃さんの夢小説パート4!今回はルーファウス新社長でございます!
 燕璃さんはキャラクターの書き分けが見事ですね……。
 既成キャラ、特に自分の好きな既成キャラ複数書くと、どうしても似たようになってしまうものですが、それがないのがすばらしいです。
 つくづく、こんなクオリティの高いものがフリーでいいんですかい!!と叫びたくなってしまいます。

 そんな素敵夢小説満載!な燕璃さんのサイト「氷雪原の庵」へはこちらから

 

 

 

 

 

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