気になったのはその瞳で


だけどその輝きは


悲しい事実だけれど その輝きは


自分では生み出す事は出来ないものだった













 届かぬ星と届かぬ祈望















「あ。」

「・・・!」


ヒーリンロッジの近く。

舗装もされていない土がむき出しの道の途中。

銀の少年と彼女は偶然会った。

少年は嬉しそうに笑みを浮かべるが、彼女はスゥッと目を細めて険しい顔をした。


「ひさしぶり。」

「どうしてここに居るの。」

「元気そうでよかったよ。」

「何をしに来たの!?」

「怒るなよぉ・・・久々に会えたのに。」


己のバイクの上で少年―カダージュは少しだけ拗ねた。

それを歯牙にもかけずに彼女― フェイはもう一度訊ねた。


「二度は言いたくないけど、何をしに来たの。」

「怖い顔しないでよ。大丈夫、大した事はしてないよ。」


クツクツと喉の奥で笑う。

だが彼とは対照に フェイは険しい表情のままだった。

カダージュはおもしろくなさそうにフゥ、と息を吐いた。


「社長がさ、嘘ついてたから本当の事教えてもらいに来たんだよ。」

「・・・ジェノバの居場所の事?」

「そう。母さんの隠し場所。」

「自分じゃ分からないわけ?」

「悔しいけど、そうなってるんだよ。」


僕は思念体だから、とカダージュは吐き捨てるように言った。

その後「あ」と小さく呟く。


「社長には何もしてないよ。」


その言葉に フェイが一瞬反応した。

ピク、と小さく肩が動いたのをカダージュは見逃さなかった。


「ねぇ。」

「何。」

「社長の事、好きなの?」

「それを知ってどうするの?」


しばらく沈黙が流れた。

ヒーリンロッジの周囲にある森から鳥が鳴く声が響く。

カダージュは分からない、というような顔をした。


「何で社長なの?」

「あなたに理由を話す必要はないわ。」

「何で、何でなのさ!?」


カダージュが声を荒げた。

まるで子供が怒りを抑えきれなくなったように。

バイクから飛び降り、 フェイに迫る。


「僕は フェイが好きだよ。誰よりも、何よりも好きだよ。

 なのに フェイは僕の事少しも見てくれない!!

  フェイの心はあいつの所にある!!何で社長なのさ!?」


手に入らない。

心はこちらへ向いてくれない。

悲しいのか悔しいのか、憎いのかも分からない。

全てがぐちゃぐちゃに混ざった感情が噴き出してくる。


フェイ、少しでも僕に応えてよ・・・。ほんの少しでも、応えて。」

「それは、出来ないわ。」

「どうして?」

「今の私は死人が蘇ったようなものよ。」


フェイはそう言って自嘲気味に笑った。

そして淡々と述べる。


「2年前ビルの崩壊と共にあの人が死んだと囁かれ、私は死んだも同然だった。

 あの時の私は神羅の、ルーファウスのために身をもって駒となる覚悟だったもの。

 それが無くなったと聞かされて私は支えを失ったのよ。

 でも、あの人は生きていた。

 私は今こうして彼のために色々働いているけれど、どんなに動こうと“私”は2年前に“死んだ”の。

 同時にあの時抱いていた感情を心ごと封じた。

 だから私は彼にかつての想いを伝える気も無いし、あなたに応える気も無い。」

「・・・それで、いいの? フェイはそれで満足なの?

 何も求めないの?手に入れたいとは思わないの?」


対象に愛情を求めるのが普通じゃないのだろうか。

対象を自分のものにしておきたいという独占欲が多少なりとも出てくるのではないのか。

カダージュの問いに、 フェイは少しだけ笑って答えた。














一人バイクを走らせるカダージュ。

ヒーリンはもう遠くにあり、肉眼でやっと確認できるくらいの距離だ。

突然カダージュはバイクをスライドさせ、その場に止まった。

ふと片手を額にあてる。

あの時 フェイはこう言った。



『現状に満足しているから。』

『再びあの人のために動けるだけで、十分よ。』

『穏やかな恋しか知らないのなら、忍ぶ恋があることを学びなさい。』



最後に一度だけ額に触れた手は、軽く頭を押して―

そして彼女は一度も振り返らずに去って行った。


「・・・ふっ・・・」


悲しいのか、辛いのか。

ジワ、と涙が浮かんだ。

一度だけ、たった一度だけ応えてくれたのはやはり拒絶で。

優しさの中に見えた残酷な現実。


「うぁあぁぁぁっ・・・!!」


彼女が触れた額に手を当てて泣き崩れる。

組んだ手とその姿は―

届かぬ祈りを祈る姿にも似ていた。



















■コメントゥ■

突然舞い降りたのは片翼の天使ならぬネタの天使。
あぁどうしよう、勢いって怖いね。
いつも両想いなのでたまに色を変えたくなる時期があります。
ACフィーバー中にやってきたらこの結果。いや、見事にジャストでドーン。(何)

で。カダージュ→夢主→ルーファウスという形になったのですが。
人にはその人なりの愛情の表現法があるという話。
この話でのカダージュのように求めた時、それに応えてもらたらという形もあれば、
夢主のように傍に居て静かに見守るだけで十分という形。
十人十色といいますか、多種多様といいますか。
辛いとするかは当人の問題だと。

毎回タイトルで一番時間を喰います。
皆様どのようにつけていらっしゃるのか・・・。
母さん、僕はまだまだ未熟のようです。

お読みくださりありがとうございました。
御帰りは こちら から。



 2005.10.18 write


 氷月燕璃さんの夢小説第三弾〜。
 相変わらずものすんごい筆力!すばらしい!!!「ほぁ〜ほぁ〜」と言いっぱなしでした。
 燕璃さん、あなたを「(夢小説の)ゴッドファーザー」と呼ばせてください!
 

 あ、ちなみに、燕璃さんのコメント部分の「こちら から」では燕璃さんのサイトへ飛べません。
 燕璃さんの独特な世界「氷雪原の庵」へ飛びたいあなたはこちらから!

 

 

 

 

 

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