確かなものが欲しかった
そんな時に キミは笑ったから だから
たとえ幼い感情だったとしても
忘らるる都を拠点としたのはいつだっただろうか。
ただ、「彼」がかつてそこにいた気がしたから。
そんな理由だったと思う。
人のいない、歴史の中に消えて行った都。
フェイはそんな場所に元々居たかのように現れた。
名も無い小さな村の習慣で送られたのだ、と言っていた。
季節が巡るたびに娘を一人、星に捧げる為にここへ置き去りにしていくのだ、と。
ふざけた習慣があったものだ。
星に捧げたところで星が何をしてくれるのか。
そう言った気がする。
フェイはそれを聞いて言った。
「そうね。確かに、そうかもしれないわね。」
その時見た笑顔が、印象的で―
気がつけば僕達三人+一人の生活が始まっていた。
忘らるる都は海のような色合いをした場所だ。
陽が差すと本当に海の中にいるような色合いで都を照らす。
水の中に居るような錯覚を覚える事もたまにある。
フェイは透き通るような水を湛えた小さな泉の水辺に居た。
あまり風の吹き込まない場所だからだろうか。
泉は波一つ立てずに鏡のように存在していた。
それを見ながらふと、思う。
村の習慣から、半ば追い出されるようにしてここに辿り着いた。
魔物に襲われるなり、飢えるなりして死ぬかと思えば今もこうして生きている。
ここでの生活は村に居た頃とあまり変わらない。
否、おかしな三人組と一緒だからむしろ楽しい。
だが時々思うのだ。
自分がここに居るのは何故なのか、と。
彼らは『母さん』と『兄さん』を探している。
彼らの探し物が終わった時、自分は果たして何処へ行くというのだろうか。
フェイは水鏡の中の自分と向き合う。
じっと見ていると、こころなしか水面の自分が笑った気がした。
―こちらに、くればいいじゃない。
―だってもともと こちらにくるはずだったのでしょう?
水面が揺れた、気がした。
音が消えたかと思った次の瞬間、水の中に居た。
最初は仰向けに寝転んでいるのかと思ったが、纏わりつくような水の重さが違うと示していた。
沈んでいくはずだった。
しかし、引き上げられた。
「何、してるのさ。」
自分の深い青の髪の間から銀が覗いていた。
顔をあげると、自分と同じようにずぶ濡れのカダージュが居た。
フェイは自分が何故水の中にいたのか思い出そうとしたが、思い出せなかった。
ただそれよりもいつの間にカダージュがいたのかが気になっていた。
「姿が見えないから探してて・・・驚いた。」
「何に?」
「覚えてないの?自分から飛び込んだのに?」
「とびこんだ・・・。」
心当たりが無い、というような顔をして呟く
フェイに、カダージュは小さく息を吐いた。
フェイの手に自分のを重ね、小さな声で言った。
「いなくなるかと、思った。」
「ん?」
「
フェイが、いなくなるかと思った。」
その声に見えたのは、子供のような感情。
置いていかないでとすがるように、切望していた。
いつだったか彼は言っていた。
自分たちには確かなものが無い。
だから“自分”を繋ぎとめる確実なものが欲しかった、と。
人は誰かを求めずにはいられない、というが、まさにそれだった。
まだ見ぬ母をかぶせているのかもしれない。
だが彼は自分を必要としている。
幼い感情だろうと、必要としてくれている。
フェイはそこまで考えた後、笑い出していた。
「はは・・・あはははははっ。」
「 フェイ?」
「な、何だろ。わかんないっ・・・ははははははっ。」
「理由になってないし。」
「本当にね。あははっ、ははははは。」
フェイの笑いがいつまでも止まらない。
彼女を見ていたカダージュもつられるように少しだけ笑った。
「どうしたぁ?」
「やけに笑い転げてるのがいるけど・・・。」
「さぁ?そんな気分なんじゃないの?」
何事か、とやってきたロッズとヤズーにそう返した。
やがていつの間にか三人ともつられて笑っていた。
終
※妄想しすぎと言わないでいて下さい。
つーかロッズとヤズーの口調分からんわ!!
2005.9.21 write
2005.9.22 up
茶釜の良き友人、氷月燕璃さんのカダージュ夢小説第2弾です。
こんな素敵小説をフリーにしてしまうなんて……!なんてなんて太っ腹なんでしょう!!
今回もいいですね〜いいですね〜。
茶釜は読んでる間ニヤニヤしっぱなしでした(怪)
そんな素敵小説を書いてくださる氷月燕璃さんのサイト「氷雪原の庵」はこちらから。
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