純粋だからこその行い
純粋の中に秘められた狂気
side D
小さな猫がいた。
放っておけばすぐに死んでしまいそうな小さな猫。
何が気に入ったのかは分からないけど、飼っていた。
飼っていたことに、なっていた。
だけどその猫は死んだ。
目の前でピクリとも動かない。
冷たくなってしまった。
いつものようにじゃれついてくることはない。
その場に横たわり、微動だにしない。
『死んだら、星に還るんだよ。』
誰かがそう言っていた。
その言葉が非常に不愉快だった。
星は嫌いだ。
星に流れるアレも、嫌いだ。
そこへこの猫も行ってしまうというのか?
不愉快だった。
言葉に表せない怒りが沸々とこみ上げてくる。
カダージュの目が一瞬細められた後、カッと見開かれた。
(血の匂いがする・・・)
フラリ、と薄い気配をまとって フェイは歩いていた。
人の嗅覚でも薄く感じ取れるくらいの血臭が漂っていた。
出所を探すように匂いを辿り、歩いていく。
近づくにつれて血臭はどんどん濃くなっていく。
軽く嗅いだだけでも感じ取れるくらいに。
やがて辿り着いた先には、小さな血だまり。
いや、血だまりというにはいくらか大きい。
まるで飛び散ったかのように。
その中に銀が揺れていた。
少しだけ目を細め、誰か判別する。
「・・・カダージュ?」
「ッ・・・!!」
突如我に返ったかのようにバッと振り返る。
そこにいたのが
フェイだと分かったのか、小さく息を吐いた。
フェイはしばらく何も言わずにカダージュを見つめていた。
白い肌には何かが所々付着していた。
見た感じとしては液体に近いモノだ。
辺りに漂う濃い血臭からして、付着しているのは血に間違いない。
スッと床に視線を落とす。
飛び散った血。
細かく刻まれた肉。
肉塊に等しい何かが彼の近くに転がっていた。
血に濡れた毛のようなものが見え、そこで理解した。
再び視線をカダージュに戻すと、何かを訴えるような目がそこにあった。
「だって・・・星に還るんでしょ?許せないじゃない・・・。」
「・・・・・」
「僕の傍を離れて星に還る・・・嫌いなあの流れの一部になるんだろう?」
だから、と言い、言葉を詰まらせた。
静かに聞いていた
フェイはあぁ、と思った。
小さい頃自分が何かをしでかしてしまい、怒られるんじゃないかと怯えているような感じがした。
子供のように純粋なココロ。
だから抑制もあまり利かない。
嫌なものは嫌だ、とストレートに表れた結果がコレだ。
無邪気、という言葉があるがまさにその通りだ。
邪気が無い、純粋なる行動。
フェイは静かにゆっくりと目を伏せ、ゆっくりと開いた。
「カダージュ。」
そっと手を伸ばすと、カダージュが小さく肩を震わせたのが分かった。
伸ばした手でそっと頬に付いていた血を拭う。
戸惑った表情が返ってきて、 フェイは優しく笑う。
「ひどい顔。早く洗わないと台無しね。」
「
フェイ・・・?」
「大丈夫。分かってるから。」
もう一度別の場所に付いている血を拭う。
カダージュが強く抱きしめてきた。
突然のことに戸惑うが、そっと腕を伸ばして優しく抱き返す。
フェイは静かに思う。
(大分、病んでるなぁ)
彼の純粋さも、純粋ゆえの狂気も愛してしまっていると気づいた。
だが後悔の念は無い。
フェイはカダージュの存在を感じながら、静かに目を閉じた。
終
2005.9.21 write
2005.9.22 up
氷月燕璃さんの、カダージュ夢小説でしたv
燕璃さんの文章力にはいつもいつもうなされっぱなしであります。
この夢もカダージュの心の弱さや脆さが余すところなく出てたと思います。何て、うわっ!偉そう!!
そんな素敵な夢をフリーにしてしまう太っ腹な燕璃さんのサイト「氷雪原の庵」はこちら
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